「握手会みたいな感覚」

「本当かなー?」



疑う楓に、しどろもどろになってしまう。

隠すことは何も無いのに。

すると、楓がテーブルに肘を付き、前のめりになる。



「じゃあ、今、好きな男子とかいないの?」

「残念ながら」



私の中では、この会話は終了したので、残りのミルクを片付けようと、一気にカップを傾けた。



「『健太くん』は?」

「ん゛んっ」



危うく、吹き出しそうになった。

可笑しなことを言った張本人は、むせる私の腕を擦り、心配しながらも、容赦なく斬り込んでくる。



「健太くんって、幼馴染みなんでしょ?」

「う、うん」

「最近よく華世から名前、聞くようになったからさ。良い感じなのかなー、って思ってた」

「そ、そんなことないよ。小学生のとき、私、からかわれてばっかりだったし……」

「例えば?」



髪の毛を引っ張られたり、ブスブス言われたり。

その他諸々の出来事を、楓へ愚痴るように話した。

それに「ふーん」とだけ言った彼女は、人差し指を立てる。



「それ、よくあるやつじゃん。好きな子の気を引きたくて、いじめちゃうって」

「ええ? そんな訳ないよ」

「あるある。みんなにそういうことする子だったの?」

「ううん。みんなには優しかったのに……」

「そういうことよ! 硬派! 真面目! 寡黙!の三拍子のイメージしかない蜂矢くんがするんだから」

「そのイメージは、今だから言えるんだよ」

「今は華世にも、優しいんでしょ?」



私が頷くと、楓はにんまりと笑う。



「つまり、好きな女の子の扱いが分かってきたのよ」

「や、やめてってば」



否定し続けても、楓は繰り返す。

違うと繰り返す私も、頬が熱くて「もしかしたら」と期待のような、そうでないような感情が沸き上がっていた。