「なんで?」

「私が間に入ると、気持ちが伝わりにくくなっちゃうんじゃないか、って思うから」



私が渡したら、海藤くんは手紙の送り主の顔すら知ることは出来ない。

印象は、きっと残せない。



「本気のことなら、尚更。本人が、ちゃんと勇気を出して直接、伝えるべきだと思う。ごめんなさい」



緊張の中、一息で言い切った。

ほんの少しだけ、息が上がっている。

大人しそうな子は不安そうに眉を下げ、気の強そうな子は呆れ切った表情で言った。



「もう、いいよ」



そして、周りの子たちに「行こ」と声を掛ると、踵を返す。

大人しそうな子の顔が、ひどく落ち込んでいた。

それに胸が傷む。

でも、私は、きっと正しいことを言えた筈。

私が安堵の溜め息を吐いて、少し視線を下に向けたとき。



「っ!あれ……」

「どうしたの、華世」





「スリッパの色……!」



不意に気付いてしまった。

大人しい背の低い子は、私たちと同じ青のスリッパだった。

しかし、その周りを取り巻いていた気の強そうな子含め、他2人のスリッパは赤なのが、確認出来た。

つまり──。



「ちょっと待って。今の3年の先輩だったの……」

「え? 今更?」

「楓、気付いてたの?!」

「うん」



特段、何とも無さそうに頷く楓の前で、私は項垂れる。



「嘘……。タメ口っぽく、喋っちゃった」

「いいんじゃない? 気にする人だったら、その時点でキレてくるでしょ」

「楓は相変わらず、強者だ……」

「任せときな」

「それは、ちょっと不安……」



胸騒ぎがするのは、断ってしまった罪悪感のせい、な筈だ。