人気の無い棟の階段で、健太くんと2人っきりで話した、その翌日。

健太くんが教室に飛び込んできた、朝一の出来事だ。

彼は教室に足を踏み入れたと思ったら、真っ先に私の席までやって来る。

その姿は、あまり見たことが無い程に、興奮気味だ。

私は既に席に着いていて、見下ろされる形になる。

未だ、鼻息が荒い。



「は、華世ちゃん」

「おはよう。健太くん、どうしたの? 一旦、落ち着いて」



息を整えさせると、ようやく話せるようになったようだ。



「落ち着いた?」

「うん。その……華世ちゃんに一番に伝えたかったから」

「まさか……!」



私は口を押さえながら、例の結果を待つ。

健太くんは、私を見て頷いた。



「選ばれた」

「本当に!」



喜びのあまり、椅子から勢いよく立ち上がる。



「おめでとう! 試合、頑張ってね」

「ありがとう。良いところ、見せられるように頑張るから」



私に向けられた熱い視線は、強い意思を帯びていて、それは肌にビリビリと感じる程だった。

こんなにも本気になれるのは、素敵なことだ。

彼のそんなところにも、私の胸は熱くなる。



「応援してるからね」



私が応援の言葉を掛けているにも関わらず、健太くんは無言で、私から目を離さない。

名前を呼び掛けても、尚もじっと私を見つめたままで、言った。



「本当に、意味分かってる?」

「分かってるよ。高校での初舞台だもん。親御さんや、みんなに良いところ見せないとね」



意気揚々と答えた私に、健太くんは大きく溜め息を吐く。



「……そんなことだろうと思った。華世ちゃんらしいっちゃあ、らしいけど」

「え?」



健太くんは、ただ微笑んだ。

そして、1限目の授業に備え、席へと歩いていく。

これ以降、私と彼が会話をすることは、一度に無くなった。