1年生でレギュラーに入れるなんて、やっぱり健太くんは凄い人、超人なのだ。
そう思ったが、それだけではないのだと、幼馴染みだからこそ彼の姿を近く見てこられた特権があるから、知っている。
この結果は、彼が人知れず努力を積み上げたものが、ちゃんと実ったのだ。
誰だって、はじめから出来る訳が無いのだから。
そして、何よりも今、触れているゴツゴツした筋張った、傷だらけの手が全てを物語っている。
私は、そっと彼の、その傷痕を撫でた。
突然、私が起こした行動に、健太くんの視線が突き刺さっているのが、見なくても感じられる。
自分のことを、触りたがりの痴女だと思われていないかが、少し心配だ。
でも、そんな話を聞かされて、こんな手を見せられたら、呟かずには居られなかった。
「……頑張ったんだね」
健太くんの手が、ピクリと震えた気がした。
「気が早い。まだ分からないけど、って話。今日の部活で、発表があるから」
「じゃあ、今日こそ早く行かなきゃ! 私なんかに構わず!」
今度は、健太くんをこの場から追い出すようなニュアンスで言ったわけではない。
本当の意味で、急かす為だ。
すると、健太くんは少しだけ切なそうに笑って言った。
「華世ちゃんは、俺にとって特別な存在なのに、蔑ろに出来る訳ないだろ」
「え、今、なんて……」
「2度は言わない。じゃ、俺、部活行くわ」
「あ……うん。いってらっしゃい。気をつけてね」
ん、とだけ軽く言って、去っていく健太くんの背中が、急に恋しくなった。
『特別な存在なのに……』
『俺、実は……』
そう言い始めた時には、告白されるのかと思った。
私は私で「手紙の宛先、本当は健太くんに宛てようとしてたものなんだよ」とは言えなかった。
言いそびれてしまった。
伝えたい気持ちは、確かなくせに。
ぶら下がったままの気持ちが、気持ち悪い。
あと一歩が、踏み出せないでいる。
自分の掌を見つめると、温かかった健太くんの熱を思い出してしまう。