「っ………」





ドッと心臓が大きく揺れた気がした。



だけど俺はその感覚に眉根を寄せて、大きく息をする少し前屈み気味の葵さんを見た。





「何しに来たんだよ…」


「なに、って、はぁ…それは……」


「帰って。」


「え?」


「移るし、帰って」





腕で口元を抑えて葵さんから距離をとる。





「ま、待って泉くん!話が…」


「いいから帰れって!!!」


「っ!」





声を荒らげれば葵さんはビクッと肩を震わせた。



その姿を目の当たりにするとギュッと胸が苦しくなる。



だから俺は……こういう顔が見たいんじゃないんだってば。





「………………」


「………………」





シーン、と。

静まり返るこの場。



気まずくなった。だいぶ。


俺はその空気感から目を逸らし、背を向けた時だった。





「ッ!? なっ…」





ドンッ!と背中に何かが当たったかと思えば、それはどうやら葵さんの突進だったらしく。





「ちょ、馬鹿…!」





今の俺には身体を立て直せるくらいの力は余ってなくて。




ぐらっと目線が回転すると、


俺はそのまま床へと倒れ落ちた。






倒れる直前に俺と同じ方向へ倒れてきた葵さんの腰に慌てて手を回し、どうにか守ってあげられるように抱き寄せて。