≪結衣side≫



10時頃大雅兄と話したのは覚えてるけど……


あのあとすぐ寝ちゃったんだな。




私はゆっくりと体を起こして時計を確認すると12時前。


なんかちょこちょこ目が覚めるなぁ。





なんか……お手洗い行きたくなってきた。



立ち上がりお手洗いまで歩こうとするけどなんかフワフワしてうまく歩けない…。




結「ケホケホ……ゴホッゴホッゴホッ」


やばい。いつものだ。





私は何日かに一度咳が止まらなくなる時がある。


呼吸も苦しくなるけど、しばらく耐えればすぐ治るから病院には行ったことがない。





結「ゴホッゴホゴホッ」



やばい。


大雅兄お昼になったら起こしに来るって言ってたからはやくしないと戻ってきちゃうよ。




こんな姿見せたら絶対心配かけちゃう。


はやく治まれっ!




でも焦れば焦るほど咳はひどくなる一方で…





どうしよう。

このままだと本当に戻ってきちゃう。



それに…

いつもとは比べ物にならないくらい苦しくなってきた。



熱のせいかな。





ひとまず私は大雅兄にバレないように口元に先ほど瑛斗さんがくれたクッションを当てた。





治まれ。治まれ。治まれっ!





そう強く願うけど…


なかなかそう上手く治りそうもない。






すると…


コンコン。ガチャリ。






大「結衣…起きてたのか?」


大雅兄がドアを開けて入ってきた。



喋ると咳がバレてしまいそうで言葉が…出ない。




大「まだ寝てなきゃダメだろ?クッションに顔埋めてどうした??辛いのか?」


心配そうにそう尋ねてくる大雅兄にさえ首を振るのが精一杯。



だんだんとトレーを持っている様子の大雅兄は私に近づいてくるのがわかる。






大「結衣…?」


結「大…丈夫……だよ。」




大「ん?ちょっと背中ごめん。」


そう言うと大雅兄はゆっくりと背中をさすり始めた。




大「結衣、クッション貸して?」


結「……」


貸してと言われてもクッションがないと咳を隠せない。


私は必死にクッションにしがみついた。




大「クッション禁止。貸せ!!」


結「ゲホッゲホッゲホッ!!」



呆気なくとりあげられてしまった……





大「ほら。咳出てる。ゆっくりと呼吸して。」


貸せと言って少し乱暴に取り上げた大雅兄はすぐさま優しい声でそう言い、私が呼吸しやすいように一緒に深呼吸をしてくれた。












大「だいぶ落ち着いて来たな。ったく…こんな涙目になって……」


少し怒った口調の大雅兄だけど涙目になった目元を優しく指でなぞり涙を拭いてくれた。






結「ごめんなさ…」


大「俺は……お前が辛い時は全力で支えるし、お前が1人になったら絶対見つけて側にいてやる。だから1人で苦しむ事はすんな。もっと頼ってくれよ。」




結「大雅…兄……」



どんな顔をしていいのか分からなかった。


寂しそうに…でも頼れるお兄ちゃんの顔でそう言ってくれる大雅兄。



今まで1人で乗り越えるのが当たり前だと思っていた。


お母さんだっていつも仕事を頑張ってて…


だから家に1人でお留守番しなきゃいけなくて。


周りには「偉いね。」って言われるけどうちでは「当たり前。」



風邪を引いてもお母さんには心配も迷惑もかけたくないから秘密にするし

虐められても、自分さえ気にしなければ大丈夫だと思って生きてきた。





今私が大雅兄に言われた言葉。



それはものすごく温かくて、優しくて、嬉しい言葉。



それなのに…


嬉しいはずなのに…






どうして笑顔ではなく涙が出てくるんだろう。




大「何も心配すんな。泣きたい時は泣いていいから。」












涙が止まらなくなった私を大雅兄は優しく抱きしめて涙が止まるまでずっとそばにいてくれた。