≪大雅side≫





その日の夜。おばさんは泊まって行くことになった。


大「飯…ここに置いておく。」

俺がおばさんが泊まる部屋まで飯を届けに行くと、先程の勢いとは違っておばさんは落ち着いている様子だった。


母「ダメね。私…。今まであの子が喘息だなんて知らなかったし、気付かなかった。それなのにあの子のためだなんて…」


そう言って落ち込んでいる様子のおばさん。



大「アイツは何でもないフリして笑うのが得意だからな。だからこそ俺は不安なんだ…アイツが俺の気付かないところで泣いてないかとか…辛い思いをしてるんじゃないかって。」


母「あなたは大雅君…だったかしら?」

大「ああ。」

母「あなたは本当に結衣を大切に思ってくれてるのね。それなのに…ひどい事言ってしまってごめんなさいね。」


アイツを大切に?

当たり前だろ。

あんな強がりで、優しくて…

いつも笑ってて……


そんなほっとけない奴…目を離す方がどうかしてる。


とか言うわけにもいかない。

俺は頭を下げて部屋を出た。






瑛「結衣を大切に……か。」

俺が部屋を出るとドアの横の壁にもたれかかるような体制で聞き耳を立てていた瑛斗兄が言ってきた。


大「……聞いてたのか。」

瑛「一言言っておくが…アイツを大切に思っているのはお前だけじゃない。」

瑛斗兄は少し機嫌の悪そうな顔でそう言った。


大「分かってるよ。そんな事。」


…分かってる。

ちゃんと。







結「大雅兄瑛斗兄居たんだ!」


と突然笑顔で声をかけてきた結衣に俺たちは驚いた。


大「結衣!?」

瑛「な、何だよ!!」

結「いや?私もう部屋行くから声かけただけだよ。おやすみ!」

瑛「そう言えば…事務所に断りの電話入れたそうだな。」

結「あ…うん。せっかく誘ってもらったけど…私は人前に立つような生き方してきたわけじゃないから。大雅兄今日はありがとね。」


結衣はそう言って笑うと部屋に入って行った。


……もう寝るのか。
まだ早いのに珍しい。

今日疲れたんかな。



大「俺…ちょっと結衣見てくる。」

瑛「あ、おい!!」



俺は急いで結衣の部屋に行きドアを開けた。

大「結衣?」

結「あ!もう!またノックもせずに…」


そう言う結衣は手にこの前持っていた万年筆を持っていた。

大「それ…この前持ってたヤツだよな?そんなに大事なものなのか?」


結「あ…これね。お父さんが亡くなる前にくれた物なの。『お前は賢くなれ。これ以上俺を絶望させるな。』って…」


……なるほどな。
だからこいつはずっと勉強ばかりしてたのか。

学年でも常に上位の結衣。

親父との約束を守るためだったのか。


……でもそれは結衣の枷になっているような気がする。

親父が言った言葉やこの万年筆が。




俺はそう思った。