≪結衣side≫







夢を見ていた。

『あぁ…またお前は咳をしているのか…』

『咳き込ん出るのに俺のそばに寄るな!』

『か弱い人間ほどクズな奴は居ない。』

そんな罵声を浴び続けた幼少期。



『お前はまた体調を崩しているのか。そんな弱い奴うちにはいらん!』

『病院なんて行くな!金がもったいない!』



ひたすら「ごめんなさい」としか言えなかった日々。



そして最期には

『お前はもっと賢い奴になれ。これ以上俺を失望させるな。頭が良くなることしかお前にはもう希望がない。』

そう言い父は私に万年筆を渡した。



私が体調を崩すと煙たがる父。

私には何も取り柄がないと言った父。

そんな父でも私のたった1人のお父さんだった。

嫌われたくなかった。


だから私は体調を崩してもバレないようにして、毎日勉強を頑張ってきた。


何度も叩かれた。
それでも耐えた。

でもそんな事…思い出したくもない。

だから記憶から少しでも抹消しようとしていたんだ。

当時の記憶はないフリをしていた。


私は本当に最低な人間だ。













結「……ん。」

大「結衣……大丈夫か?」


結「私…!病院…ダメっ。」

夢の続きかのような感覚。
私は恐怖に襲われていた。


大「大丈夫…。俺がいるから。」

私が取り乱しそうになると大雅兄は私を落ち着かせるためにギュッと抱きしめた。

とても強く。


結「大雅兄……ごめんなさいっ私…」

大「ごめんなさいは無し!俺はいつでも味方だ。」


喘息の発作があると悪夢ばっかり見てしまう。







ガラガラ。

太「おお!結衣ちゃん起きてた!」

突然病室に入ってきた太陽さんはいつものような笑顔だった。

結「あ、あの…」

太「具合どうかな?少し診るね」


そう言って聴診を始める太陽さん。

そして少し難しい顔をした。


太「この様子だと1週間くらいは入院かな。」

…入院!?

結「えっでも…」

太「とりあえずこの後いくつか検査しないとだから少し休んでおいて。」





…もうなんで私はこんなに病気ばかりするんだろう。

注射とかお薬も大嫌いなのに。

入院も検査もしたくない……



大「結衣?どうした?」

結「なんでもない……」















それからまず血液検査が行われた。

担当してくれたのは琉兄でも太陽さんでもなく看護師さん。

血管が細いからと言って何度もグリグリされて結局5回刺してやっと取れた始末。



太「じゃあ次はインフルエンザの検査みたいに鼻に綿棒入れて検査するね。」


結「やだ…やりたくないっ」

太「すぐ終わらせるから頑張ろうね!」


そう言うと遠慮なく検査を進める太陽さん。

結「んーっ!」

太「痛いね。すぐだからね。はい!おしまい!よく頑張ったね!」


太陽さんは私の頭をポンポンと撫でた。

けど……私の心は完全に折れていた。



毎日悪夢を見るし、痛い検査たくさんあるし、ずっと点滴だし……

もうおうちに帰りたい。