≪結衣side≫






あの日の夜私の母子手帳や写真を見てから大雅兄の様子がおかしくなった。


やっぱり見せない方が良かったのかな。




いつもながら部屋で勉強していた私は引き出しの箱から万年筆を取り出した。


「まだそんなの持ってたの?」






結「お…お母さん!!」

母「ただいま!結衣!」

結「え、帰って来たの?」

母「そーよ。お母さん彼がまた日本に帰ってくるまで近くのタワーマンションに住むことになったんだけど…1人じゃ心細いし、家事苦手なのよね。」

結「お母さんが家事苦手なのは知ってるよ。」

母「だからしばらくお母さんと一緒に住もう!」



結「え!???」

母「じゃ、これ住所ね。待ってるから。」



……それはまた勝手すぎないか?







   













結「って…ことなんだけども。」

私はその日の夕飯時その事をみんなに伝えた。

その反応は意外とあっさりだった。



琉「了解した。どれくらいそっちに住むんだ?」

結「多分…1年くらいになるだろうと…」

瑛「1年!?」

秀「でも俺らがどうこう言うことじゃないよな。」

大「……」



結「明日には…ここを出ようと思ってます。」

秀「でも今は登下校時大雅がついてたから良かったけど…大丈夫なの?」

結「そこはなんとか1人で頑張ろうと思ってる。結局このままでも大雅兄が卒業したら1人だったわけだし…」


秀「そっか。ま、別々に住んでもたまには遊びにおいでよ。ここは結衣ちゃんの家でもあるんだから。」

結「ありがとう…。じゃあ私荷物まとめてくる。」


そう言って私は部屋に逃げた。

 
勝手にずっとこのまま一緒だと思ってた。


毎日大雅兄と登下校して、みんなの口喧嘩聞いたり、一緒にご飯食べたり…


それが当たり前だと思っていた。



でも、当たり前はある日突然当たり前じゃなくなる。


そんなの私が1番わかっていたはずなのに……。






所詮私は親同士が再婚しただけの血の繋がりのない義兄妹だ。


お母さんがいるのにここに残りたいと思う方がどうかしている。



私は自分にそう言い聞かせた。












次の日。
家を出て行く日がきてしまった。



琉「毎月1回喘息の検診に来ること。」

と私の体の事まで気遣ってくれる琉生さん。

秀「俺と大雅は学校でも会えるからな。まぁ何かあったらいつでも声かけてよ。」

といつものような笑顔を見せてくれる秀兄。

瑛「あ、そーだ、これ。事務所から。本当は直接話そうと思ってたんだけど…ま、考えて答え出たら教えて。」

と私に紙切れを渡す瑛斗兄。

大「……。」

何も喋らない大雅兄。



本当に私はこの家を出て行くのだ。




結「ありがとうございました。これ一応住所書いてあるので…。」

秀「1年後にはここに帰ってくるんでしょ?」

結「バイトして一人暮らしを始めてもいいかなって思っていて……」

琉「ま、困ったらいつでも帰ってこい。」


私はみんなに見送られ、その家を出ることになった。


あんなに嫌だった場所が…
こんなにも出て行くのが嫌な場所になるなんて……


思いもしなかったな。


その日から私はお母さんと一緒に住むことになった。