≪結衣side≫



大「お前。しばらく俺の部屋使え。俺ソファーで寝るからベッドも使っていいし……」





そう言ってくれた大雅先輩の部屋というのは30畳近くあるだろうか……


小さい冷蔵庫とかもあってこの部屋だけでも住めそうだ。


前の1LDKアパートの2倍以上の広さはあるだろうか。


改めて住む世界の違いに圧倒させられる。




結「え?でもっさすがにそれは…….」



大「いいからお前は大人しく俺の言う事聞いとけ。」



結「ありがとう。」



大雅先輩って本当優しいんだな。






大「そーいえばお前布団は?前使ってたやつとかあるだろ。」


結「引越しの時に全て処分されちゃったみたいで…」




そう、ほとんどが処分されていた。



服とかも持ち合わせているのはほとんどない。







大「………そっか。なら今度一緒に買い行くか?」


結「ううん。大丈夫。行くなら一人で行けるから……」


それに今はそんなことよりも早くここを出るのが先だ。


大「じゃ、風邪治ったら行こうな。」







……ん?

人の話聞いてた??


大丈夫って言ったのに……











そんな会話を大雅先輩としていると私はいつのまにか寝てしまっていた。









スー……スー……





大「ったく。頼ってくんねーと分からねぇだろうが。アホ。」


そんな大雅先輩の言葉さえも聞こえないほど爆睡してしまっていた。



















コンコン…



突然聞こえたノックの音で私は目を覚ました。




ノックの音と共に入ってきたのは瑛斗さんだった。






大「んだよ。せっかく結衣寝たとこだったのに…起こしやがって。」


瑛「知らねーよ。」


大「で?なに?」



瑛「いや……俺のせいで体調崩したって…」


大「じゃ、俺腹減ったから飯でも食ってくるわ。」



何かを察したかのように大雅先輩は瑛斗さんの肩をポンと叩いて部屋を出て行ってしまった。


結「あ、あの…私…」

気まずい……


思わず私は体を起こした。




瑛「寝てろ。琉兄から聞いた。熱…かなりあんだろ?」


結「えと……少し??」


瑛「……ほれ。」


そう言って渡してきたのは可愛らしい犬のキャラクターのクッションだった。




結「あの…これは?」




瑛「部屋はここの隣。ベッドは発注したから数日で届くだろう。気に入らなかったら捨てろ。」





瑛「俺のせいで風邪引かせたみてぇだし……」





瑛斗さんはそこまで言うとフイッとそっぽを向いた。






もしや…これは謝ろうとしている??




瑛斗さん…不器用なんだな。

私は思わず笑みが溢れた。






結「瑛斗さん…ありがとうございます!」


私はそう言って微笑んだ。


瑛「これ以上熱とか出されて俺に責任なすりつけられても迷惑なだけだから。それだけだ。」





すぐに目を逸らして出て行ってしまった瑛斗さん。
本当はきっと優しい人なんだな。






……にしてもクッションまで犬って。











私はそんなことを思いながらも点滴が効いてるのか、熱のせいかまぶたが重い。


そして、いつの間にか再び眠りについていた。


























あつい……あついよぉ……



誰か……










琉「……ん。……ちゃん。……結衣ちゃん。聞こえる?」

琉生さんの声に私はうっすらと目を開けた。


そこには心配そうに見つめる琉生さん、秀先生、大雅先輩の姿が見えた。




頭がガンガンして目を開けているだけでも精一杯。





結「だい…じょうぶ…」


それでも私の口から出たのはそんな言葉だった。







今まで出来るだけお母さんに迷惑かけないように生きてきた。

そんな私は上手い頼り方を知らないのかもしれない。



大「お前はアホか?辛い時くらい辛いって言えよっ」



怒っている大雅先輩の姿。













分かんないよ。



今まででこんな体調悪くなるの初めてだもん。










その瞬間肩のあたりに痛みを感じた。





琉「ちょっと痛いけど…ごめんね。強い薬だから熱引いてくると思うから。」



秀「結衣ちゃん。本当無理しないで。」



大「お前は本当バカだな。」



結「ヒック……」





こんなの。知らない。



大「お前……そんな痛いか??」



ううん。違うの。




体調悪い時に心配してくれる人がいるってなんて幸せなんだろうって

心から思うから。



もっともっと嫌われているかと思っていた。





出会った時は可愛い妹が良かったって言われちゃったし…

実は根に持ってるのかも、私。




こうして私はこの家族に、お兄ちゃんたちに少しずつ馴染んでいくのかな。