≪結衣side≫





トントン

ノックが聞こえた後すぐにガラリと戸が開いた。


看「あなたよね、琉生先生に告げ口したの。」

やってきたのは先ほどの看護師さんだった。

その看護師さんは大雅兄がいる事に気付くなり

看「ちょっと席を外してくれる?私彼女と2人で大事な話があるの。」

と言った。

怖い。いなくならないで。

私は強くそう願った。


大「大事な話…ねぇ。ならそのポケットに入ってる刃物は必要無ぇんじゃないの?」

……ポケット??

……刃物?

私がチンプンカンプンになっていると看護師さんは突然カッターナイフをポケットから出してきた。


看「あんたみたいなヤツいなきゃいいんだ。」

大「なんだと?」

私に刃物を向けながら怒鳴りつける看護師さんに声を荒げる大雅兄。

何でカッターが入ってると分かったんだろう……。


看「いいわよね。あなたは味方してくれる人が居るんだもん。」

そう言う看護師さんはとても小さく弱々しく見えた。

きっとこの人は1人だったんだ。

……私みたいに。


私も1人が多かった。

お母さんと2人で暮らしていた時は。


お母さんはとても優しかったけど、私が寝た頃帰ってきて、話すのは基本朝のみ。


私にはあまり仲良くしてくれる女友達も居なかった。

男の子は優しくしてくれたけど、優しくされればされるほど女の子達は私に意地悪をするようになり、自分から距離を取るようになった。


嫌なことがあっても、それを共有する人はいない。

弱音も吐けない。


慣れては居たけど、寂しかった。


今この看護師さんはそんな気持ちなんだ。

私はそう感じた。




きっと辛いことがあったのに、当たりどころが分からず、私がとても幸せそうに見えて、それが憎らしくて、妬ましかったんだろう。



分かるよ。

私も羨ましかった。

友達も居て、授業参観にお母さんが来てくれて…

そんな人が羨ましかった。




私はベッドから起き上がりその看護師さんの近くへ行った。

大「おい結衣!!」


看「来ないで!!きたら刺すから!!」


持っているカッターを振り回すその看護師さんは怯えている表情だった。


辛いよね。

わかる。

大「やめろ!行くな!結衣!!」


1人が平気だなんて人、この世にはきっと居ない。


気付いたら私はその看護師さんを抱きしめていた。


結「辛い…です。1人は。」

思い出してなのか、振り回したカッターが当たって痛かったからなのか、私の頬には涙が伝っていた。

でもそんな私を見てその看護師さんは怒鳴る一方。


看「同情なんて……馬鹿にすんな!」

そう言って私の太ももを切りつけた看護師さん。


結「同情…かもしれないです。でも分かるんです。私もずっと1人だったから。」

看「嘘つくな!綺麗事ばっかり言うな!」


さらに暴れようとする看護師さんはカッターを離そうとはしない。


大「結衣!!!」


そう呼び止める大雅兄の言葉を無視して続けた。


結「嘘じゃ無いです。ずっと友達ももいなかった。帰っても“おかえり“と迎えてくれる人は居ない。。楽しいことや嬉しい事すら共有出来なくて…。たとえ辛くても自分でじっと堪えて、吐き出せなくて…。心に出来た傷はもっと抉られるような気がして……。それは本当に辛くて悲しい。そう思うんです。」

看「……」


結「そんな辛い思い…もう誰もしちゃダメだと思うのです…。だから………」


私は言葉を失った。

お腹が…痛い。

私は床に崩れ落ちた。


大「結衣!?」


看「ごめんなさい…。ごめんなさい…。」


結「あの……。私じゃ不服かもですが…弱いことも嫌だった事も聞きます。」


大「結衣…分かったからもうしゃべんな。」


結「……だから私が嫌いなら嫌いってちゃんと言って下さい。ちゃんと受け止めます。悪いところがあったらちゃんと直します。だから…おこがましいお願いかもですが……私とお友達に……なりません……か?」



私がそこまで言うとその看護師さんは泣き崩れた。


すると……ガラガラっと戸が開いた。


真「結衣~見舞いに来たぞ~」

入ってきたのは真央ちゃんと紗希ちゃんだった。

紗「これは何かのパフォーマンス?」


大「んなわけねーだろ!」


結「あ…違…これは自分で……」


お腹に刺さったカッターがじわじわと痛みを増してくる。

さっきまで興奮してたからなのか大丈夫だったのに……