≪榊side≫

 


行く当てもなくとりあえず車を走らせたが…

そこからあまり離れていないショッピングモールへと行った。

そこは映画館やアパレルショップ、飲食店も全て揃っているし、野外にはなるが噴水もあって女の子を連れて行くには無難だろう。


榊「着いたぞ。」

結「ありがとう。」

着いて早々に俺は車を出て助手席の扉を開けると結衣はそう言った。


榊「ここでよかったか?」

結「うん!」

榊「じゃあ中入るか。」


俺は一応パーカーを羽織りショッピングモール内へ入った。


結「わー!いろんなお店があるね!!」

榊「来たことねぇのか?」

結「似たようなところは行ったことあるけどここは初めてだよ!」

榊「そうなのか…」


家からここまでは車でくればさほど離れたところでは無いのに……。

榊「どこか行きたい店あるか?お前も女なんだし、見たい服とかあるだろう。」

結「みたい服かぁ…。あまり買ったことないから分からないなぁ…。」

榊「普段買ったりしてるだろう。通販なのかいつもお前宛に服が届いてる。」

結「あぁ…それは…お義父さんが選んでよく送ってくれるんだよ。」

榊「自分では選ばないのか?」

結「今までもずっと欲しいものとかって買える環境じゃなかったから…いつしか物欲も無くなっていたな。」


俺は少し驚いた。

確かに主人の実の娘ではないと聞いていたが…思っていた以上に大変な家庭事情で育ってきたのかもしれない。

榊「なら今日選べばいい。なんでも買ってやる。」

結「えぇ…大丈夫だよ!!もし欲しいのあったら自分でも買えるし!」

榊「そう遠慮するな。誕生日だっただろう。2週間前の今日。」

結「え?どうして知ってるの?」

榊「当たり前だろう。知っていて当然だ。」

結「榊さんって本当すごいなぁ。」


……すごいのだろうか。

俺はこいつの執事であり、こいつのプロフィールは全て把握はしてある。


榊「いいからなんでも選べ。」

俺がそう言うと結衣は言った。

結「でもそれはプライベートな事でしょ?そこまでしてもらう資格…私には無いよ。」

そう言いながら下を向く結衣。

こんなにも謙虚な姿を見て俺は少しイラッとした。

俺なら確実に貰えるものなら貰っておくだろう。

なんでこいつはそうしないのだろうか。


俺も意地になって言い返した。



榊「そんなプライベートな日に電話をかけてきたのは誰だ?」

結「それは……」

榊「いいからさっさと選べ。俺の貴重なプライベートな時間を邪魔した罰だ。」


だいたいこいつが電話なんてかけてこなければ俺は本性を見せる事も、こうして出かける事も無かったのだから…。


俺はこいつの執事に過ぎない。

それなのになんでこんな……。


会いたいとか一緒にいたいだとか…思ってしまうんだろう。


他の男と仲良くしているとなぜこんなにもイライラしてしまうんだろう。


これは決して表には出してはいけない感情なのだ。