≪結衣side≫



大雅兄が目を覚ましたのは事故から1ヶ月近く経った時のことだった。






放課後、いつも通り大雅兄のお見舞いに行った日のこと。


結「大雅兄…もう6月だよ。毎日会えるのは嬉しいけど……起きてくれなきゃやだよ。」

そう声をかけてもやっぱり返事はない。

寂しい。

結「ねぇ……大雅兄…起きてよ。」


私は大雅兄の大きな手を握った。

すると……ピクリと弱いけど握り返してくる大雅兄の手。


結「たいが……にぃ…」

眠ったままだった大雅兄はゆっくりと瞼を開けた。



大「………っ」



その瞬間溢れてくる涙。


ずっとずっと……会いたかった。

願っていた。


結「大雅兄……!?」

段々と握る手が強くなる大雅兄。


結「大雅兄…大雅兄……っ」


私は感極まって何度も何度も名前を呼んでいた。

うるさそうに顔をしかめる大雅兄。

そして私の声で反応した太陽さんもやってきた。

太「大雅…!!良かった…。」

太陽さんも泣いていた。


私はすぐにみんなに知らせ、太陽さんは担当のお医者さんを呼びに行った。









それからしばらくすると大雅兄酸素チューブを取ってもらい喋れるようになった。


大「結衣…無事で良かった…。」

開口一番に行ったのはそれだった。

なんでよ……。

もっと自分の心配してよ。




結「バカっ!!心配してたんだから…っ」


大「男の子は?」

大雅兄は本当に優しい。

人のことばっかり心配して…。




結「何ともなかったよ。」

私がそう伝えると安心したかのように大雅兄の体から力が抜けるのを感じた。

大「良かった…。」

そう言って再び目を閉じる大雅兄。



結「大雅兄疲れた?私帰ろうか?」


大「大丈夫。ただ喉乾いた……」


太「じゃあ俺なんか持ってくるよ。」



結「私のお水飲む?常温だし、口つけてないよ!太陽さんあげても大丈夫?」



太「大丈夫だよ。」

太陽さんに許可をもらうと私はペットボトルのお水を手渡した。


大「じゃあもらうわ。」

そう言うと大雅兄は水をごくりと喉を鳴らして飲み出した。

そんな大雅兄に思わずドキッとしてしまう自分がいる。



大「ん?」

結「えっ…な、なんでもない…」

太「結衣ちゃん顔赤いよ?もしかして熱…」

結「な、なんでもないよ!!わ、私…お手洗い行ってくる!!」


そう言って私はお手洗いまで走った。

大好きな大雅兄。

それは変わらない。


でも前と少し違うんだ。


大雅兄にドキドキが止まらない。














しばらくして大雅兄のところへ戻ると太陽さんの姿はなかった。


大「結衣。こっちおいで。」

結「え?」

大「早く。」



私が側へ行くと大雅兄は少し怖い顔をした。

大「手、出して。」

結「どうして?」

大「いいから。」

私は手を出そうとしたが…

ふと手首にたくさん傷をつけてしまったことを思い出し、手をしまった。


大「なんで出せないの?」

結「えと…」

大「ごめんな。心配かけて。手……痛い?」

結「大丈夫…」


…バレてたんだ。

太陽さんはそーゆーのわざわざ目が覚めたばかりの大雅兄に言わないだろうし……

改めて大雅兄は恐ろしい人だと思った。