落ち込むセシリアとは裏腹に、父はいつもより上機嫌のようで、アルヴィンにわざわざ娘を頼むなどと声を掛けていた。
「セシリア」
 とぼとぼと歩くセシリアに、アルヴィンは声を掛ける。
「気にする必要はない」
「でも」
「魔力が強すぎる子供は、母体を守るために守護魔法を使うらしい。だからセシリアはむしろ、母親を守っていたことになる」
「わたしが?」
「そうだ。体調を崩しただけで生きているということは、そういうことだ」
 生まれる前の記憶などないから、嘘だとは言えない。
 でも、そんな話は聞いたことがなかった。魔法に精通しているはずの父も、その話は知らないようだ。
「本当に?」
「ああ。俺の国ではよく知られている話だ。それができるくらい、セシリアの魔力は強かったということだ。だから公爵の的外れな怒りなど、まったく気にする必要はない」
 セシリアを傷つけるような発言をした父に、アルヴィンは不快さを隠そうともしない。
「もう、アルヴィンったら。一応お父様は、あなたの雇い主よ?」
「俺の主はセシリアだけだ」
 どんなときも味方でいてくれる彼の存在は、セシリアを優しく救ってくれる。