あの悪役令嬢は桁外れの魔力のせいで増長し、婚約者である王太子や王女にまで傲慢に振る舞っていた。
 でも今のセシリアはアルヴィンの腕輪のお陰で魔力も小さく、そのため、おそらく王太子の婚約者になることはない。
 考えてみれば、すべてアルヴィンのお陰だ。
 まるでセシリアが悪役になって破滅してしまうことを防ぐために、彼が手を貸してくれているようだ。
(どうして、わたしを助けてくれるの?)
 不思議に思って彼を見上げると、アルヴィンはその視線に気が付いて、笑みを浮かべる。
「少し、落ち着いたようだな」
「ごめんなさい。急に泣いたりして」
 慌てて涙を拭う。
「謝る必要はない。ただ、何がセシリアをそんなに悲しませた?」
 労わるような表情が、急に鋭さを増す。
 もし、誰かがセシリアを泣かせたのなら容赦はしない。そう言いたげな様子に、慌てて首を振る。
「違うの。誰かのせいってわけではなくて。ええと……」
 さすがに、今思い出したばかりだ。
 すべてを打ち明けるには、まだ心の整理がついていなかった。
 少し考えてから、今は、予知夢のように脳裏に浮かぶ記憶のことだけを話すことにした。