「いや、何年か後には使えるようになったらしい。手記によると、この世界の人間を愛し、ここで生きる決意をしたら、自然と魔力が身体に馴染んでいったと記録されていた」
「この世界の人間を、愛する……」
 アルヴィンは、そんなことで魔法を使えるようになるのかと、疑っている様子だった。
 でもセシリアにはわかる気がする。
 だって今でも、前世で暮らしていた日本が懐かしい。
 戻れるのなら、戻りたい。そう思っている。
 でも彼のように大切な人ができたら、この世界で生きる覚悟も決まるだろう。
(そうしたらわたしも、魔法を自在に使えるようになるのかしら)
 いつか、そんな日が来るといい。
 そう思っている自分に気が付いて、セシリアは微笑んだ。
(もちろん、破滅するのは嫌だから、王太子殿下以外の人よね)
 もうあの予知夢の通りになるとは思えないが、避けられるものなら避けたいと思う。
 魔力も抑えているし、おとなしくしていればきっと大丈夫だ。
「セシリアには異世界の記憶なんてないと思うが、症状はほぼ彼と同じだ。だから、もしかしたら彼のように、恋をすれば変わるかもしれないな」
 前世の記憶があることを知らないアルヴィンは、そんなことを言う。