セシリアも、五年前のことを思い出してみる。
 ひとりでは何もできない、まだ十歳の少女だった。
 寂しさから家出をしてみたものの、さすがにあのままひとりで生活できるとは思えない。
「そうね。あのときのわたしでも、そう思う」
 同意して頷くと、アルヴィンは言葉を続ける。
「だが今の俺は、国を出ても生きていけるし、両親などいなくても、何の問題はないことを知っている」
 そう言う彼の表情はとても穏やかで、セシリアは不安や焦りが消えていくのを感じていた。
「怒りや恐怖は永遠には続かない。いつしか色あせて、消えていくものだ。あの日の俺の憎しみも怒りも、失った恐怖も、すべて過去のこと。今の俺にとって大切なのは、お前を守り、今までの恩を返すことだ」
 アルヴィンはもう、過去を乗り越えていたのだ。
 それを知り、ようやくセシリアも微笑んだ。
「そう。だったら、心配はいらないわね」
「ああ。俺の生存を知り、向こうから仕掛けてくるなら容赦はしないが、そうでないのなら、もう放っておいてもいいと思っている」
 それに、とアルヴィンはセシリアを見て言葉を続けた。