「むしろ今までの俺は、お前に守られてばかりだった」
 だが、声を荒げるセリアの金色の髪に指を絡ませ、アルヴィンはそう言って目を細めた。
 優しい瞳で見つめられ、言葉を失う。
「あの日、正直に言えば、俺はもうすべてを諦めていた。負けない、逃げるわけにはいかないと口にしながら、立つ気力さえなかった」
「……アルヴィン」
 出逢った日の姿を思い出し、セシリアも手を伸ばして彼の腕に触れた。
 衣服の下に、鍛えられた筋肉の躍動を感じる。昔はこの腕も、華奢な少女だったセシリアと同じくらい細かった。
「疎まれていた俺を、セシリアは傍に置いてくれた。公爵家の令嬢が自ら手料理を作ってまで、俺を守ってくれた」
「……料理は、趣味だったから」
 まっすぐに向けられる好意が恥ずかしくて、思わずそんなことを言って視線を反らしてしまう。
 でも食の細いアルヴィンのことが心配で、どんなものなら食べられるのかと、毎日必死に考えていたのだ。料理のことばかり考えていて、家庭教師に叱られたこともある。ずっと傍にいた彼に、今さら隠せるものではなかった。