傷は浅いように見えるが、いくら治癒魔法をかけても、なかなか塞がらない。焦ったセシリアがさらに力を注ごうとしたが、アルヴィンに止められた。
「これ以上、魔力を使うな。王太子との戦いで、自分が思っているよりも消耗している」
「でも、アルヴィンが……」
「たいした傷ではない。放っておいても問題はない」
 たしかに彼の言うように、見た目は浅いようだ。
 だがセシリアは、魔族から受けた傷をアルヴィンに残しておきたくなかった。制止の声を振り切って、治癒魔法をかけ続ける。
「セシリア!」
 魔力を注ぎ続け、ようやく傷口が塞がったのを見た途端、めまいがした。
「無理はするな」
 アルヴィンの肩に身体を預けながら、傷ひとつなくなった腕を見て、ほっとして息を吐く。
「だって、何だか嫌な予感がしたの。このまま魔族から受けた傷を残しておくと、よくないことになる気がして」
 責めるような視線を、わざと拗ねたように見返す。
「アルヴィンが無茶なことをしたせいだからね?」
 魔族を単独で追いかけようとするなんて、本当に無謀なことだ。もし何かあったらどうするのか。