彼を警戒させないように、セシリアは王女の部屋を出たあと、魔封じの腕輪をもう一度装着している。
 ふと、視線の隅に誰かが倒れているのが見えた。
 服装からして、王城で働くメイドのようだ。
 おそらく眠っているだけだと思うが、それでも容態は確認しておいた方がいいだろう。そう思って近寄ったセシリアは、そのメイドがまだ年若い少女だということに気が付いた。
 厨房の見習いメイドだろうか。
 そう思いながら手を差し伸べようとした。だが、その少女から禍々しい気配を感じて、慌てて離れる。
「まさか……」
 警戒しているセシリアの前で、少女の姿は黒い煙になって消えていく。
「!」
 同時に、背後から足音が聞こえてきた。振り返ると、悲しそうな顔をしたアレクがこちらに向かって歩いてくる。
「ああ、残念だね。もし気付かなかったら、怖い目に合わないですんだのに」
「……」
 おそらくこの城に倒れていた人たちのように、セシリアのことも眠らせてしまおうと思っていたのだろう。でもセシリアは彼が思うような、守護騎士に守られているか弱い令嬢ではない。
 戦う意志を固めて、まっすぐに彼を見つめた。