何か事情があるのは間違いない。でもまだ幼いセシリアは、そんなことまで考えず、無防備にその少年に近寄った。
「ねえ、あなたもひとりなの?」
 急に話しかけてきたセシリアに、少年は警戒したような視線を向ける。だがセシリアは、そんな彼の警戒にまったく気が付かず、彼の隣に座った。
「わたしはセシリア。あなたのお名前は?」
「……アルヴィン」
 無邪気なセシリアの言葉に毒気を抜かれたのか、彼はそう答えてくれた。
「アルヴィン。あのね。わたし、今日は十歳の誕生日なのに、ひとりきりなの」
 膝を抱えて彼にそう訴えると、寂しさが蘇ってきた。セシリアの瞳に、たちまち涙が溜まっていく。
「お父様は出かけてしまったし、お母様は寝室から出てこないのよ。お兄様も、ずっと部屋に籠ってお勉強しているの」
 突然近づいてきて、泣き出してしまったセシリアをどう扱ったらいいのか、アルヴィンも困っている様子だった。それでも、まだ出逢ったばかりで互いに名前しか知らない間柄だったのに、何とか慰めようとしてくれた。
「お前は、両親に疎まれているのか?」
「うとまれる?」
「叩かれたり、食事を与えなかったりすることはあるか?」