そう懇願するミルファーに、セシリアはゆっくりと首を横に振る。
「そんなことをしてしまえば、今度は王太子殿下が、王女殿下に対する罪悪感で追い詰められてしまいます」
 魔族の力を欲したのが彼自身だったとしても、その気持ちを増長させたのもまた、魔族だったのかもしれない。
 そうだとしたら、この事件によってアレクはおそらく生涯、深い悔恨に苛まれることになる。
「それでもちゃんと罪を償えば、きっと前を向けるようになります」
 ララリも傍にいる。
 それに、アレクにこれだけのことをしでかす魔力がないことは、誰もが知っている。被害者であるミルファーが主犯になるよりも、王太子は魔族に操られてしまったのだと援護するほうが、自然だろう。
「そうね。私は自分の罪を……。お兄様をここまで追い詰めてしまったという罪を抱えて、生きていくしかないわね」
 俯いていたミルファーが、顔を上げた。
 ゲーム内の彼女は誇り高く、強い精神を持っていた。きっとこの世界のミルファーも、そんな女性になっていくだろう。