「そんなお兄様に私は、役立たずだと言いました。お兄様にはもう、期待なんかしていないと。それがお兄様を、あそこまで追い詰めてしまった……」
 力に頼らない方法を探そうとしていたのに、アレクは、次第に強い力を欲するようになっていく。もっと強い力さえあれば、馬鹿にされることもない。仲間たちで語り合った理想を、くだらないと一蹴されることもない。
 そうしてアレクはとうとう、魔族の甘い誘惑に乗ってしまったのだ。
ミルファーよりも強い力を手に入れ、今まで散々自分たちを馬鹿にしてきた妹を痛めつけた。
「……なんてことを」
 セシリアはそう呟くと、俯いて涙を流すミルファーを見つめた。
 王太子アレクの掲げた理想は、立派なものだ。
 たしかに、魔力の強い者は減っていく一方なのだから、それを何とかしなければと思うのも当然のこと。
 でも魔族の力を借りてしまった時点で、彼の理想も地に堕ちた。
 結局、力がなければ何もできないと、証明してしまったようなものだ。