自分の部屋に戻ったセシリアは振り返り、傍にいてくれたアルヴィンに声をかける。
 図書室から戻ってから、ずっと何かを思案しているらしい彼の様子が少し気になっていた。
「いや、公爵に聞く必要はない」
 アルヴィンはセシリアから魔法式の紙を受け取ると、視線をそこに向けたまま、きっぱりとそう言った。
「アルヴィン?」
 彼は手を伸ばして、セシリアの腕をそっと掴んだ。そこに嵌められている魔力を封じている腕輪に触れる。
「エイオーダ王国は、俺の出身国だ。この魔道具を作るための魔法式は、これのものとよく似ている」
「えっ……」
 思ってもみなかった言葉に、ミラは思わず声を上げる。
 アルヴィンがエイオーダ王国の貴族出身だとしたら、あの魔力の高さと魔法知識の豊富さにも納得がいく。
「そうだったの」
 だが彼と出会ったときの状況や、話してくれた過去から考えても、良い思い出ではないことは確かだ。アルヴィンも詳細を話したくないから、あの場では父の名前を出したのだろう。
「材料さえ揃えば完全な魔道具を作ることができるだろう。だから、もう心配はいらない」