いきなり魔族という言葉が出てきて驚くも、それがアレクの命令だったと知って、セシリアは複雑な心境になる。
 彼が魔族のことを調べていたのは、その力を手にするためだったのかもしれない。
「アレク様が、どうしてそんなことを」
 悲しげにそう呟くララリに、フィンは答える。
「殿下は、敵を知るために、とおっしゃった。でも、魔族による被害など、ここ数十年起きていない。僕も疑問に思ったよ」
 それでも、アレクに命じられたことなので、フィンは魔法の研究だと言って授業にも参加せずに、この部屋にいたようだ。
「それだけなら、まだよかったんだけど。殿下の名前で、この特別図書謁見室にも入ることができたからね」
 魔族についての報告書をまとめて提出してから、少しずつ奇妙なことが起こり始めたと、フィンは語った。
 友人であり、王太子であるアレクの側近候補であるダニーが、やたらと怒りっぽく、周囲を妬むような言葉を口にするようになった。今までそんな人柄ではなかったことから、フィンはとても驚いたようだ。だがそのうち、自分にも同じようなことが起こり始めた。