「ごめんなさい。わがままを言って。でも、もし怪我をしても治癒魔法で治せますし、お父様はわたしが怪我をしようと気にしないので、大丈夫です」
 もし母が怪我でもしたら、使用人たちはすべて解雇されてしまうかもしれない。でも、娘が料理をしようが怪我をしようが、父にはどうでもいいことだ。それを知っていたから、セシリアは料理長を安心させようとして、こう言った。
「……お嬢様」
 それなのに料理長は、つらくてたまらないような顔をして、ぽろぽろと涙を零す。
 いつもは公爵家の料理長として畏まっている彼だが、本当は情に厚くて気さくな人柄なのだ。
「わ、我々は……。ずっと、お嬢様の味方ですからぁ……」
 成人男性に声を上げるほど泣かれ、セシリアは若干引き攣りながらも、彼を慰めた。
 言われてみれば、両親に愛されていないことを知ってしまい、それでも健気にふるまう幼子の姿を想像すると、セシリアだって泣きたくなる。
「わたしなら大丈夫よ。泣かないで。だって今のわたしにはアルヴィンがいるのよ?」
「あの、お嬢様が連れてきた子供のことですか?」
「ええ、彼はわたしの守護騎士なの」