「好きな人……」
 まさかララリにそんな人がいたとは思わず、セシリアは彼女を見つめる。
 誰からも愛されるヒロインだ。
 彼女ならどんな恋でも叶えられるのにと思うのは、偏見なのだろうか。
「はい。魔法に関する本をたくさん頂いたこともあります。入学前に、学園内を案内してくれたこともありました」
 そこまで聞けば、セシリアにもララリの想い人が誰なのかわかった。
「アレク王太子殿下?」
 入学前の生徒に学園内を案内できるのは、彼しかいない。
「……はい。身分違いなのは承知しています。ただ、私がひとりで想っているだけです」
 泣きそうな顔で笑うララリに、セシリアは首を振る。
(そんなことはないよ。彼はメインヒーローだし、あなたはヒロインなんだから)
むしろ王道カップルだ。
「もちろん、私のことを愛してほしいなんて思っていません。たまに会えるだけで、話せるだけで満足です。……でも最近、元気がないみたいで心配なんです」
「王太子殿下が?」
「はい」
 ララリは祈るように両手を組み合わせて、頷いた。