「もしご迷惑じゃなかったら、これから仲良くしていただけると嬉しいです」
「ええ、そうね」
 アルヴィンに掴まりながらその後ろ姿を見送ったセシリアは、今の会話をどこで聞いたのか思い出していた。
(ああ、あれはヒロインとライバルの……。ララリと王女殿下の会話だわ)
 初対面で王女の守護騎士に話しかけてしまったララリを、王女は叱りながらも丁寧に理由を説明していた。
 そしてヒロインは自分を庶民だと蔑まず、わからないことは丁寧に教えてくれる王女に懐くことになる。そうしてふたりは仲良くなりながらも、お互いをライバルとして高め合っていくのだ。
 そのライバルとの会話をなぜか、ララリはセシリアと交わしていた。思えばライバルの王女の傍には、いつも彼女を守る守護騎士がいたのだ。
(どうして? わたしは悪役令嬢ではなく、ヒロインのライバル役なの? だったら悪役令嬢は誰が……)
 でも、この世界はゲームではなく現実だ。
 セシリアが悪役令嬢にならなかったからといって、誰かがその役目を担うことなんてないはず。
(冷静に、よく考えてみよう)