セシリアは彼を支えるようにその背に腕を回すと、何も言わずに抱きしめた。
 自分はもうひとりではない。
 この世界は、アルヴィンとともに生きていく、大切な場所だ。
(魔族なんかに壊させたりしない。わたしはこの世界で生きていくと決めたんだから)
 もうすぐ学園も再開される。
 そうすれば、ヒロインとも顔を合わせなければならない。
 彼女のこの世界での役割は、まだよくわかっていなかった。ヒロインは悪役令嬢にとっては敵だが、今のセシリアは悪役令嬢などではない。
 ヒロインを見極める。
 これだけはアルヴィンの手を借りずに、自分だけで済ませたい。彼をあまりヒロインに近付けたくなかった。
「セシリア、ひとりで突っ走るなよ」
 そんな心の内がわかったかのように、アルヴィンはセシリアを見上げてそう言う。
「もちろん、わかっているわ」
 セシリアの答えに安心したように、彼は頷いて目を閉じた。
 穏やかな時間が流れる。
 戦いの前の、束の間の休息かもしれない。
 これから先の未来は、ゲームの知識には頼れないだろう。
 ゲームとは違って、セーブもロードもできない。それでもセシリアの胸に不安はなかった。