あれが王家からの提供でなければ、アルヴィンの傍に置いたりしなかった。でもあの状況では、形だけでも使ったように見せなければならなかったのだ。 
 魔石が奪われたことも、その代わりに魔封石が設置されてしまっていたことも。アルヴィンがそれに触れてしまったことも、本当に不幸が積み重なってしまっただけなのか。
 他にも考えなければならないことは、たくさんある。
 現場で見かけた兄のこと。
 ダニーのときにも出現した、黒い瘴気のこと。
 ゲームの知識とこの世界が、少しずつかけ離れていくこと。
 そして、これから学園で顔を合わせるだろうヒロインのことも。
(なかなか、前途多難ね)
 思わず溜息をつくと、肩に回されていた腕に力がこめられた。
「セシリア」
「アルヴィン、目が覚めたのね。大丈夫?」
「……ああ」
 彼は頷くと、ゆっくりと身体を起こした。
 でもその動作はいつもよりも気怠そうで、魔力がまだ完全には回復していないのだとわかった。
「無理はしないで。まだ休んでいたほうがいいわ」
「セシリアは、大丈夫か?」
「うん、わたしは元気よ。魔力も完全に回復したみたい」