今回のことで、公爵令嬢とその守護騎士の愛は、きっと貴族たちにも広く知れ渡るだろう。それに割って入るなど、王家にとっては悪影響でしかない。むしろうまく利用して、今回の王家の失態を隠さなくてはならない。
 無能な兄が王太子であるせいで、やらなくてはならないことが山ほどある。
 もうこれ以上兄に時間を割くわけにはいかないと、ミルファーはさっさと席を立って、部屋から出た。
 
 残された王太子のアレクは、誰もいなくなった部屋で俯いたまま、小さく呟いた。
「もう何も期待しない、か」
 黒い瘴気が、ゆっくりと部屋に満ちていく。


 目を開けると、眩しい光が飛び込んできた。
「ん……」
 カーテンが開いたままだったようだ。朝のすがすがしい光が、大きな窓から容赦なく降り注いでいる。
 それがあまりにも眩しくて、思わずもう一度目を閉じた。
 今日はとても快晴のようだ。
(ここ、どこ?)
 自分の寝室ではないと気が付いたセシリアは、身体を起こして周囲を見渡そうとした。
 でも、動けない。
 そこでようやく、自分が誰かにしっかりと抱きしめられていたことに気が付いた。