目を閉じると、アルヴィンの腕を掴んだまま、セシリアの意識は途切れていった。

◇◇◇

 シュテル王国の王女ミルファーは、目の前の椅子に座り込んでいる兄を見て、忌々しそうに溜息をついた。
 兄はぴくりと反応するが、何も言わずに目を伏せる。
 自分が何をしたのかわかっているのですかと何度も言ったが、落ち込んだ様子ですまないと言うだけだ。
 よりによって王城で、儀式に使う大切な魔石が盗難されただけでも取り返しのつかない失態なのに、その魔石の代わりに、禁忌とされている魔封石を差し出してしまったのだ。
 その違いは専門家でもよく見ないとわからないと言われているが、普通の魔石ならば宝物庫の奥深くに隠されているはずがない。
 シュテル王国はもう少しで、優秀な魔導師をふたりも失うところだった。もしそうなっていたら、兄は間違いなく廃嫡されていただろう。
「……もうお兄様には何も期待していません。ブランジーニ公爵令嬢にも、もう近寄らないでください」
 あのふたりは互いに支え合い、力を合わせて王家に対する忠誠を示してくれた。