いくら公爵令嬢で王太子の婚約者とはいえ、その想い人を手に掛けたセシリアが無事に済むわけがない。
 その記憶の中でセシリアは、公爵家から追放され、王都から遠く離れた修道院に送られる途中、盗賊に襲われて殺されてしまう。
 だがその盗賊は、兄の手の者だったのだ。
 それを告げられたセシリアは、絶望の中で命を落とす。
(わたしは、セシリアはお兄様に、そんなに憎まれていたの?)
 身内から殺されるほど憎まれる。
 セシリアよりも年上で、異世界で生きてきた上嶋蘭にだって、そんな経験はない。
 思わず自分自身を抱きしめるようにして肩に手を回すと、傍にいたアルヴィンが心配そうに覗き込んできた。
「セシリア、大丈夫か?」
「……アルヴィン」
 ブランジーニ公爵家の紋章が入った騎士服を着用しているアルヴィンが、心配そうに覗き込んでいた。
 少し強引に公爵家に連れてきてしまったアルヴィンだったが、今は毎日のように手料理を振る舞っていたせいか、だいぶ打ち解けていた。
 穏やかな顔で笑ってくれることもある。
 でも彼は自分の素性について、まったく話そうとしなかった。