幸いなことにシャテル王国の王都は治安がよく、十歳の少女がひとりで歩いていても、危険ではなかった。でも町には幸せな家族連れが溢れていて、セシリアの寂しさをますます煽っていく。
 とうとう堪えきれなかった涙が、頬を流れた。
(私はひとりきりなのに……)
 絶望に苛まれながら俯いたとき、地面に座り込んでいるひとりの少年を見つけた。
 彼はとても目立っていた。
 艶やかな黒髪に、白い肌。
 スミレ色の綺麗な瞳。
 その容貌は、人形のように整っている。
(綺麗な子……)
 思わず泣いていることも忘れて、セシリアは彼に魅入ってしまっていた。
 それほどまで綺麗な少年が、たったひとりで路上に座り込んでいる。もしここが治安の悪い町なら、たちまち連れ去られてしまったかもしれない。
 だがここは平和な王都である。
 そのせいで誰もが、厄介な事情を抱えているらしい少年に関わりたくない。自分たちの平穏を乱したくないと考えている。
 だから彼は、ずっとひとりで地面に座り込んだままだった。
 その表情には何の感情も浮かばず、その美貌をますます人形のような無機質なものに見せていた。
(あの子も、ひとりなのね)