漆黒の艶やかな髪を掻き上げて、アルヴィンは思い出したように頷いた。
「すぐに終わらせる。セシリアは見守っていてくれ」
 そう言ってすぐにでも向かおうとした彼を、セシリアは慌てて止めた。
「待って。わたしが手伝うかどうか、そういう話し合いをしていたでしょう?」
「今なら結界のひとつやふたつ、簡単に張れそうな気がする」
「気のせいだから。アルヴィン、落ち着いて?」
 どうやら彼は、少し浮かれているらしい。
 いつもは冷静で、まったく隙のない姿を見慣れているだけに、年相応な姿が見られて嬉しいと思ってしまう。
 でも、まだ気を抜くわけにはいかない。
「魔石の盗難に、もしかしてお兄様が関わっているのかもしれないの」
 先ほど見たことを伝えると、アルヴィンは表情を改めて、考え込む。
「儀式の邪魔をするためにか?」
「わたしもそう思ったわ。でも、ブランジーニ公爵家の評判が落ちることは、お兄様にだってあまり良くないはずよ。それに、気になっていることがあるの。伝えるかどうか悩んだけれど……」
 ダニーの事件のときにも、黒い瘴気が見えた。そして今回、警備兵もそれを見ている。
「黒い瘴気、か」