涙が頬を伝って、ぽたりと床に落ちていく。
(それでもわたしは、あなたが心配なの。わたしだって、アルヴィンのことを大切に思っているのよ。わずかな危険にだって、晒したくはないのに……)
 まして、セシリアのために傷ついてほしくない。
「セシリア?」
 泣いていることに気が付いたアルヴィンは、激しく狼狽えていた。許しを請うように跪いて、セシリアを覗き込む。
「なぜ泣いている? 俺が、お前を傷つけたのか?」
 違うとも、その通りだとも言えずに、セシリアはただ涙を流す。
 大切にされていることはわかっている。
 昔の恩を返すために、守ろうとしてくれていることもわかっている。
 でもセシリアだって、アルヴィンが傷つくことなど耐えられない。
「頼む。思っていることを話してくれ。何よりもお前が大切なんだ」
 セシリアの両手を握りしめた、アルヴィンの手が震えていた。
(アルヴィン?)
 自分が少し泣いただけで、こんなに動揺するなんて思わなかった。
 誰よりも強く、高潔な人だった。
 セシリアを守るという幼い日の約束を、今まで守り続けてくれた。