きっと彼なら、魔石がなくても結界を張ることはできるだろう。でも、そのために消費する魔力は桁違いになる。
 先代の王妃陛下が視力を失い、ゲーム内のヒロインでさえ、瀕死の状態になったくらいだ。
 アルヴィンはきっと、大丈夫だと言う。心配するなと、いつものように優しく笑うだろう。
 でもセシリアは嫌だった。
 もう二度と、彼が苦しんだり傷ついたりする姿を見たくない。
(わたしの大切なアルヴィンを、そんな危険な目に合わせたりしない)
 最初は、保護欲だった。
 傷ついた子供を守らなければと思っていた。
 彼はまだ十歳の子供で、それに対してセシリアは二十九歳だった頃の記憶を持っていたから。
 でもこの五年の間に、その気持ちは少しずつ姿を変えていた。
 兄妹のように、気の置けない間柄になった。
 それから少しずつ、誰よりも信頼する大切な存在に変わっていた。
 セシリアは、彼に対する自分の気持ちがどんな種類のものなのか、ようやく少しだけわかったような気がした。
「ではわたしが魔石の代わりに、力を使います」
 きっぱりとそう宣言する。
「セシリア?」