セシリアの心と同じように、不安そうな声が聞こえてきた。
 顔を上げると、王女のミルファーが今にも泣き出しそうな顔で、立ち尽くしている。
 もう儀式に参列する高位の貴族たちは、会場である謁見の間に到着しているようだ。今さら中止だと告げるには、きちんと理由を説明しなければならない。
 もともとこれらは、ブランジーニ公爵家の忠誠は王家にあるのだと、彼らに示すための儀式だ。それが寸前で中止になってしまえば、期待した効果が得られないどころか、むしろ逆効果になるだろう。
 しかも理由は、儀式に使われるはずの魔石の紛失。
 それは国王にすべてを託された、王太子の評判にも関わる。アレクもそれがわかっているからか、思い詰めたような顔をして俯いていた。
「どうにか、ならないでしょうか……」
 ミルファーが、涙を溜めた瞳でアルヴィンを見つめる。
 青ざめた王太子も、縋るような視線を彼に向けていた。この儀式を成功させるために動いて来た宰相や、国王の側近たちも同様に。
(駄目!)
 セシリアは、アルヴィンが何かを言う前にその腕にしがみついた。