今まで後継者を決めなかったのも、それほど深い意味があるとは思えない。母のことしか考えていない父にとって、ブランジーニ公爵家の未来など、知ったことではないのだろう。
 父を見ていると、ゲームの悪役令嬢があれほど傲慢だった理由がわかる。
 この国では、たとえ王家であっても、魔力の強い者には強く命じることができないのだ。もし彼らがこの国を見限ってしまえば、大幅に戦力が低下してしまう。
(歪な世界よね……)
 そんな父も、悪役令嬢になるはずの娘ほどではないが、どこか歪んでいるのだろう。
 公爵家の嫡男だった父が、請われるままに子爵家の令嬢を妻に迎えたことといい、母に出逢う前は、本当に魔法以外の何にも興味が持てなかったということは想像できる。
 だからこうして父が動くときには、必ず母の影がある。
 セシリアを公爵家の跡取りにしたいのは、きっと母だ。
 自分と出逢う前とはいえ、母は父に自分以外の妻がいたことを気に病んでいる様子だった。その息子に爵位を継がせたくないと思ったのかもしれない。
 父を説得できるのは、母しかいない。