ヒロインはそれを慰め、支えていくうちに、ふたりの間には恋心が芽生えていくというイベントだった。
(下手に慰めなくて、よかった……)
 セシリアはほっとして、深く息を吐く。
 アルヴィンのことを思い出さなければ、つい落ち込んでいる彼がかわいそうになって、慰めていたかもしれない。
(傍にいなくても、守ってくれたのね)
 もうすぐ帰って来るだろう彼に、王太子が訪ねてきたことを話さなくてはならない。きっと怒るだろうが、アルヴィンのお陰で大丈夫だったと伝えよう。
 セシリアは緊張していた侍女を労うと、窮屈な正装を脱いでしまおうと、立ち上がって寝室に向かった。

 それから数日は、平穏な日々が続いた。
 セシリアは毎日のように魔法書を開き、ときどきはアルヴィンのために料理を作る。
 寮の食事は、一流の料理人が作るものだ。
 とてもおいしいと思うが、アルヴィンはセシリアの料理の方が好きだと言ってくれる。そう言われると嬉しくて、ついはりきってたくさん作ってしまう。
 まるで公爵家で過ごしていたように、時間はゆっくりと穏やかに過ぎていく。