敵の動きを止め、意識を奪う魔法を使っただけだ。
「セシリア、大丈夫か?」
「うん。少し驚いただけ。でも、彼はどうして……」
 昨日、王太子の提案をすべて退けてしまったが、こちらはそれを上回る提案をしたはずだ。
 王都の結界が復活することは、王家の悲願。それを持ちかえった王太子を、国王が責めるとは思えない。
 ならば、彼が暴走した理由は何なのか。
 セシリアは先ほど見えた、あの黒い瘴気のようなもののことを思い出していた。
 どこかで見たことがあるものだ。
 そう、ゲームの中で――。
(もしかしてあれって、魔族に操られた悪役令嬢セシリアが、一般人を操って配下にするときの……)
 ヒロインに対する嫉妬に狂い、とうとう魔族に魅入られた悪役令嬢。彼女は学園の生徒を操り、王都を攻める。
 そのときに操られていた生徒たちの身体は、黒い瘴気を放っていた。
 でもそのイベントは、ゲームの第二部で起こるはずのもの。今はまだ、ゲームもスタートしたばかりのはずだ。
 すでに魔族に魅入られた者が、この学園の中にいるのだろうか。
 セシリアはアルヴィンの背に隠れたまま、俯いた。