でも、自分の壮絶な過去を知ってしまった彼女は、恋という感情を知らないまま、その告白を受け入れてしまうだろう。
 誰にも愛されなかった自分を、愛に飢えていた過去を知ってしまった今、突き放せるはずがない。
 セシリアはそれだけ優しく、慈悲深い女性だ。
 だが、それでは駄目なのだ。
 アルヴィンは辛抱強く、セシリアが恋に目覚める日を待っていた。その前に強引に行動してしまって、自分の言葉が、言動が、もしセシリアを傷つけたらと思うと、恐ろしい。
 父と母はたしかに愛し合っていたが、今思い返してみれば、その愛は独りよがりなものだった。
 どちらも自分の愛に夢中で、お互いが傷つくかもしれないとは考えなかったのだろう。
 愛を恨み、疎んじていた自分に、真実の愛を教えてくれたのはセシリアだった。
「セシリア。愛している……」
 アルヴィンはそっと目を閉じて、まだ告げることのできない言葉を呟いた。