もしセシリアの魔力が父を凌駕するほど強いと知れば、父はアルヴィンの父のように、娘を憎むだろう。
 アルヴィンは、おそらくそれを知っていた。
 だからセシリアの魔力を封じ、父の疑いを完全に打ち消してくれたのだ。
 セシリアが、自分と同じ目に合わないように。
 実の父に憎まれ、危害を加えられることがないように。
(アルヴィン……)
 涙を堪えることができなくて、セシリアは振り返り、そのまま彼の腕の中に飛び込んだ。
 胸が痛くて、苦しくて、切ない。
 セシリアを破滅から救ってくれるのは、いつもアルヴィンだ。セシリアはもう、ゲームの悪役令嬢の道は歩まないだろう。
 できるなら同じように、アルヴィンを救いたかった。
 過去に戻って、昔の彼を助けてあげたい。
 セシリアが破滅から逃れられたように、実の父親から疎まれる過去を変えてあげたい。
 でも、セシリアにはその力はない。
 前世を知っていても、ゲームのことを知っていても、できることなんて何もなかった。
「セシリア。泣くな」
 でもアルヴィンは、優しくセシリアの髪を撫でて、慰めてくれる。
「だって……」