身体の弱い母を父はとても愛していて、具合が悪いと聞くと、どうしても外せない公務以外、けっして傍を離れようとしない。
 あの日。
 セシリアはアルヴィンを連れて帰り、さっそく彼を自分の守護騎士にしたいと父にねだるつもりだった。
 高位の貴族の傍に仕える守護騎士は、たいてい下位貴族の中から選ばれ、主が結婚するまで傍で守ることが使命だ。その代わりに守護騎士となった者は、主の家名に守られる。
 つまり公爵家の令嬢であるセシリアの守護騎士になれば、大抵の者は手が出せなくなる。彼の身を守ることができるし、助けてほしいと言った言葉にも矛盾していない。
 それに守護騎士といっても、セシリアの周囲には多くの人間がいるので、アルヴィンの身が危険になることはない。
 素性が知れない彼を傍に置くことを反対されるかもしれないが、そこは誕生日のことを忘れた父が悪いと、盛大に拗ねて誤魔化すつもりだったのだ。
 だが母の容態を心配していた父は、王城から帰ったあとはまっすぐに母の寝室に向かい、母が回復するまで自分の伝言すら受け付けてくれなかった。