兄がセシリアを憎んだように、どんなに望んでも得られなかったものを持っているアルヴィンを妬ましく思い、あんな言動をしたのかもしれない。
 だが、彼の心理を理解することができても、共感することなどできそうにない。
 誰かを貶めても、欲しいものは手に入らないのだ。
 できれば、もう二度と会いたくない。
(もしヒロイン目当てに、わたしたちのクラスに来たらどうしよう?)
 ゲームと大きくかけ離れてしまったこの世界では、これからどうなるのかまったく予測がつかない。もうヒロインとも、攻略対象とも関わりたくないというのに。
 ふと、もうひとりの王太子の側近を思い出した。彼もまた、ゲームと同じようにヒロインを愛するのだろうか。
(よく考えてみれば、王太子とその側近ふたりがひとりの女性を愛するって、かなり問題よね……)
 それが乙女ゲームなのだから仕方がないが、現実で起こってしまうと大変なことになる。
「ダニーのほうも、事情があるのかしら?」
 彼はゲームの中ではもう少し、落ち着いたキャラだった気がする。
 王太子アレクに対する忠誠心は高かったが、いきなり相手を怒鳴りつけるような男ではなかったはずだ。