だからどの国でも、王都には魔物の侵入を防ぐ結界が張ってあるものだ。
 でもこのシャテル王国では、六年前に王都の結界を張っていた先代の王妃陛下が亡くなってから、王都を守る結界は消滅している。
 もちろん、国でも彼女の代わりに結界を張れる者がいないかと、国中を探し回っていた。
 それなのに五年前、父は自分の魔力では無理だと言って、結界を張ることを断っている。思えば国王は、やろうともせずに断ったそのときから、父の忠誠を疑っていたのかもしれない。
(そういえば……)
 あのゲームでは、結界を復活させたのはヒロインのララリだった。
 彼女は、王都に住まう人々を守りたいと強く願っていた。
 そして魔力不足で倒れてしまうまで力を出し尽くし、とうとう王都に人々を守るための結界を張ったのだ。
 そんなヒロインを助けるため、攻略対象が全員で彼女に少しずつ魔力を注ぎ、ヒロインは生命の危機を脱する。
 それはとても感動するイベントだったことを、よく覚えている。
 もちろん、強い魔力を持っていた悪役令嬢のセシリアにも可能だった。でも彼女が、人々を守るために結界を張ることはなかった。