たしかにアルヴィンを騎士団に入れることも、セシリアを王太子の婚約者にすることもできないと言ったのだ。そう思われても、仕方がないのかもしれない。
 だがアルヴィンは、それを否定する。
「いいえ。公爵閣下は、最愛の娘の身を守るために、私と契約を結んだに過ぎません。このようなことになるとは、閣下も思わなかったのでしょう」
 父のブランジーニ公爵が妻を心から愛していることは、この国でも有名な話だ。
 その大切なひとり娘の傍に最高の守護騎士を置き、さらに愛し合う自分たちのように好きな人と結ばれてほしいと願うことも、世間から見れば不自然ではない。
 しかもセシリアは公爵家の跡継ぎではないのだから、兄よりも婚姻は自由である。むしろ娘を王太子妃にと望まないことこそ、権力に興味を持っていない証拠とも言えるかもしれない。
(お父様のわたしに対する関心のなさを知っている人なら、嘘だと見抜いてしまいそうだけど)
 少なくともこの面々では、そこまで知ることはない。
「ならばアレク殿下に、このままひとつの成果もなく帰れと言うのか!」
 激高したのは、今度はダニーの方だった。