たしかに、彼の敵がすぐ傍にいるのなら、こんなふうに座り込んでいるはずがなかった。早とちりしてしまったのが恥ずかしくて、セシリアは照れ笑いを浮かべる。
「だったら今のうちに逃げましょう。大丈夫、わたしが守ってあげるから」
 そう言って、手を差し伸べる。
 だが、アルヴィンは承知しない。
 セシリアの身を案じて、早く逃げろと言うだけだ。
 自分だって大変な状況だろうに、偶然出会った身なりの良い子供を利用しようなんて考えずに、ただ案じてくれる彼の優しさと強さに、胸がじんとする。
 どうやったら彼を保護できるのか、セシリアは必死に考えた。
 まだ幼い子供ながら、彼は逃げることをよしとせず、自分の敵に正面から立ち向かおうとしている。子供らしい表情をすることができないくらい、傷ついているにも関わらず。
「実はわたしも、そんなに安全な身じゃないの」
 しばらく考えていたセシリアは、彼の手を握ったまま、そう言って溜息をついた。