小さく切り分けた鶏肉が、目の前に差し出される。思わずぱくりと食べたセシリアは、その柔らかさと味付けに感動するも、公爵家の令嬢がやっていいことではなかったと反省する。
「おいしい……。でも、はしたない、よね」
「気にするな。ここには俺たちしかいない」
 周囲にはたくさん人がいるが、アルヴィンにとっては、ふたりきりらしい。
「そうね。うん、苺のシフォンケーキもおいしい」
 気を取り直して、セシリアも笑顔でそう言った。せっかくのデートだ。楽しまないと損だろう。
 帰り道は少し暗くなっていたから、手を繋いで歩いた。
「おいしかったね。今度は別の料理も食べてみたいな」
「俺は、セシリアの作ってくれた料理のほうが好きだ」
「え、本当に? わたしの料理なんて、簡単なものばかりよ?」
 でも愛情はたっぷりだから、とふざけて口にする。
 アルヴィンはそんなセシリアを、愛しそうな、眩しそうな目で見つめている。
(演技、だよね? 恋人同士のふりをしているから、わたしをそんなふうに見つめているんだよね?)
 胸が高鳴って、苦しいくらいだ。