「望、ぼーっとしてないで、温かいうちに食べなさい」
相変わらず、家族の愚痴や、ご近所さんの世間話を語る祖母の言葉は、私の耳を右から左へと通り抜けていく。
私は、温かいのか、冷たいのか、そんなことも分らないまま、食事を喉に通した。
部屋に戻ると、机の上の人形が私を見て笑っている。
その体は、夕方見たよりも亀裂がそこかしこに広がっているようだ。
足に、胸に、頭に、罅が進行していく。
まるで、本当に私の家族が壊れてしまうように……
私は、その人形をそっと机の端に追いやった。
目に入れないように、参考書に視線を落とし、勉強に集中しようとした。
“お父さん、早く帰ってきて”
何時間も机に向かって、その時を待った。
しかし、その夜、玄関の開く音が階下から聞こえることはなかった。
そして私は、机に伏したまま朝を迎えた。


